10月1日に、「響きの継承 ~山岡重治追悼コンサート~」が開催されます。
今年1月に他界されたリコーダー奏者、山岡重治先生を偲び、先生に学んだリコーダー奏者たち、ゆかりのある演奏家の方々が出演するコンサートです。
コンサートの詳細は、平尾リコーダー工房のホームページをご覧ください。
私は、先生が昨年秋にご病気になって入院されてから、先生のことを文章にすることができずにいました。
でも、先日この追悼コンサートに向けた最初のリハーサルを終えたとき、不思議と「今なら書けるかもしれない」と思えました。
先生は、私が「夢」だと思っていたことを、「ちゃんと実現できるよ」と教えてくださった方でした。
大好きなリコーダーを吹いて生きていきたいという、私にとって一番大きな夢も、「どうすれば実現できるのか」を一つひとつ教え、支えてくださいました。
学生の時も、プロのリコーダー奏者として演奏するようになってからも、先生との時間は続き、コンサートやCDのレコーディングなど、多くの機会をご一緒させていただきました。
そんな時間を重ねる中で、先生は、私にとって何でも話せる存在になっていきました。
「先生、こんなお仕事が決まったー!」
「こんな悔しいことがあって!」と、まず先生に話すのが当たり前でした。
日常の他愛ないことから、仕事のこと、そしてリコーダー奏者としてどう生きていけばいいのかということまで、先生はいつも穏やかに話を聞いてくださり、必要なときには具体的な道筋を示してくださいました。
例えば、今のレッスン室でもあるマンションの購入を迷っていたときのこと。
自分にはとても無理だと思っていた私に、先生は大好きなお酒を飲みながら住宅ローンの仕組みを説明し、私にも分かるように計算してくださいました。
「この年収なら、このくらい借りられて、返済はこうなるよ。」
「ほら、ちゃんと現実的でしょ。」
そうやって、私が一歩踏み出せるように背中を押してくださいました。
先生は、演奏はもちろんのこと、私がリコーダー奏者として、そして一人の人間として歩いていけるように、夢をひとつずつ現実にする方法を一緒に考えてくださいました。
このように何から何まで話していたので、先生がいらっしゃらなくなってからも、その習慣だけはなくなりません。
コンサートに向けて準備している曲について。
本番が終わったとき。
何か面白いことがあったとき。
迷いがあったとき。
ふと「あ、先生にこの話をしよう」と思ってしまう自分がいます。
もちろん、もう返事は聞こえません。
それでも、不思議と「うんうん」とお酒を飲みながら聞いてくださっているような気がして、今でも心の中で先生に報告をしています。
先生とのつながりは、なくなったのではなく、形を変えて続いている。
そんなふうに感じています。
先生は、私のコンサートにも門下生発表会にもよく足を運んでくださり、平尾リコーダー工房としていくつもの演奏会を後援してくださいました。
客席の後ろから、いつもの穏やかなにこにこ笑顔で見守ってくださる姿は、私にとってとても心強いものでした。
今年の2月と7月のコンサート「イタリア・バロック 光と闇の物語」のテーマが決まったときも、真っ先に先生に報告しました。
一緒にビールを飲みながら、コンサートテーマである当時の作曲家たちのスキャンダル話で盛り上がって笑っていました。
あのときは、先生がいつものように客席で聴いてくださるものと、何の疑いもなく思っていました。
先生が入院されてからも、私はお見舞いに行く度にいつものように近況を報告していました。
「先生、早く元気になって退院して!こないだ『食べよう』って言ってたチャーシュー、一緒に食べたい!」
「先生、もうすぐコンサートだから、そろそろ治って!打ち上げで一緒においしいもの食べて飲もうよ!」
などと、自分勝手なくらい普段どおりのことを話していましたが、今思えば、あのときは、とにかく「元気になって、元通りの生活になる」と信じたかったのだと思います。
先生は以前、「お葬式は、しんみりしているより、せっかくみんなが集まるんだから、楽しい感じがいいなぁ」と笑って話していました。
お葬式では、その言葉を思い出しながら、できるだけ笑顔でお手伝いをさせていただきました。
先生との思い出も、教えていただいたことも、本当はまだまだ書ききれません。
先日、この追悼コンサートに向けて最初のリハーサルを行いました。
誰とどんな曲を演奏するかは、本番までのお楽しみなので、ここではまだ秘密にしておきます。
リハーサルを終えて強く感じたのは、「先生と演奏した音楽を再現する場ではない」ということでした。
もちろん、先生と積み重ねた音楽は、今も私の中にあります。
でも、今回共演する演奏家には、その人自身が先生から受け継いだものがあり、その人自身が歩んできた音楽があります。
だから生まれる音楽は、以前と同じである必要はありませんし、先生も、それを望まないと思います。
今、この組み合わせだからこそ生まれる音楽をつくることが、このコンサートにふさわしい形なのではないかと思いました。
それが、先生への感謝であり、「響きの継承」なのだと思っています。
まだ本番まで約2か月あります。
これから少しずつリハーサルを重ねながら、この日だけの音楽を育てていきたいと思います。
10月1日、皆さまとその時間をご一緒できましたら幸いです。
